加藤先生の過去作品 其の弐「アクトレイザー」

「アクトレイザー」とは

(Gファンタジー 第1章 ’93 11月号〜’94 3月号 第2章 ’94 4 月号〜’95 3月号掲載)

 検索すると幾つかヒットしますが、これスーファミのゲームらしいです。
 クインテッドという会社が制作しエニックスで発売。
 ゲームジャンルはアクションだが、クリエイションモードがあるという当時は画期的なゲームだったらしい
 『ストーリーは神様が渾沌とした大地に人間を増やし、魔物を退治していく話。』
とされていました。
 魔物退治がアクションで、人間を増やして町を作り、文明を作るってとこがクリエイション?
 街の人間の数を増やし、人間達の望みを叶えてあげなきゃいけない。
 詳しいことはやってないんで分りません。
 通の方には割かし人気のこのゲームをベースとして、加藤先生が漫画化したということのようです。

<第1巻あらすじ>

遙か昔……人々は神の守護のもと
魔王の影に怯えて暮らしていた…神と魔王は対立していたが その力は互角であるゆえ
世界は均衡が保たれ 長い平穏が続くかに見えた… しかし地上を望む魔王は 静かに だが確実に
邪悪な胎動を続けていた…
そして今 伝説は動き始める…


魔族の侵攻に曝される小国で盗賊を生業とする青年・ダーツ。
彼は高利貸しから金を盗みを働く義賊として、城下では英雄扱いされていた。
ある日、ドジを踏んで牢屋送りとなったダーツは、そこで不思議な老人から一降りの剣と珠を渡される。
城と街を襲う魔族の群に立ち向かい、王女アリシアを助けるため剣を抜き放つ。
魔族の放つ魔法に抗しうる力を持ったその剣は、神剣カオススレイヤー、神となる者が持つとされる剣と呼ばれる。
また珠からは神を守護する一角龍が現れる。
あの老人は力衰えた神であり、ダーツは次期神として認められたのだ。
そして魔王サタンを倒し、魔族から人間の世界と平和を取り戻すために、アリシアたち人間達と協力し反魔族戦を繰り広げる。
ネズミの姿として地上に具現化した天使を傍らに置き、ダーツは世界の成り立ちを知り、彼が背負うべき世界のあり方を模索する。
そして、アリシアがサタンの手に落ちた−
サタンの居城に乗り込んだダーツに対し、サタンは世界の矛盾を説く。
「人間など守ってやる価値もない」
かつては次期神として認められていた男は、世界を滅ぼし新たな理想郷を作ることを望んでいた。
だが、それはダーツの信念とは反するもの。
「オレは死んだって人間の味方をする」
交渉の決裂…人間の未来をかけた最後の戦いが始まる。

<第1巻感想>

 短期集中連載ということなんでしょうか、5回で終了しているので展開が早いです。
 第1話から第2話の間でいきなりアリシアの国は魔族に乗っ取られ、彼女は反乱軍のリーダーになってます。
 ダイの大冒険のレオナ姫みたい…ってのは禁句?後に氷漬けにされるし。
 ラスボスのサタンは残酷冷徹なヤツって感じだが、美形なのか根暗なのか…マザコンって事は確実だが。
 それが起因しているのか知らないが女好きだろう。初登場時はハーレムっす(笑)
 嫌なことがあって、「人間みんな死んじゃえ!」キャラは今でも不変的にいるが、言うことはご大層なもんだ。
 自分から弁証を求めておいて、理で負けたからって人質と実力行使は止めとけ。だからガキなんだよと思いました。
 

「俺は泥棒で悪を知っている。善の崇拝者ではなく。だが善を知っている」
 魔王サタンの前で神に選ばれた理由を問われてのダーツ(→)の答え。
 この前後の駆け引きもいいんですが、この一言が一番かな。
 神の裁定者が全くの善では勤まらない、悪も又然り。中間にあるものこそが相応しいってことですね。
 サタンのご託に対する一喝、
「自分の行動を正当化する理屈なんざ星の数ほどある…
 その理屈が段々増えてきて、しまいにゃ自分が利口で仕方ねぇって思えてくる。
 そういうのをな、子供(ガキ)ってんだ」

 も柄は悪いが色々小難しい理詰めでくる相手には良い返しだ。

 ラストは「まあ、大体そういう終わりだよね」というハッピーエンド。
 コミックの前書きに『黄金パターンを取り込んで、臆面もない冒険譚を成立させたい…』
その通りでしたね、加藤先生。

 




<第2巻あらすじ>

偉大な王を失った大国は かつてない混乱の中にあった…
 その大国は三百年の内乱を隔て 三つの王国に分裂
諸侯 騎士団の封土 自由都市までもが独立自治を主張し…
 互いの欲望や憎しみは戦争を生み…
それはまた… 眠りに着いた魔を…
 再び呼び醒ますことになる…


 かつて一つの帝国であった三つの王国、その一つビルトラン王国−
 その国にただ一人の王子・フィルは父王の元、騎士団長ライアル、侍女エリス、教育係など城の人々に囲まれ、王子として厳しくも暖かく育っていた。
 国外では他の2国ドーア・パルシアとの関係は緊迫状態であった。
 ある日、ビルトラン王城に一人の女性・モリガンがやって来たことで、フィル運命は大きく変わる。
 国王である父を殺害した犯人として、無実の罪を被せられたフィル。
 そこには大国間の過去の因縁、そして利権を巡る策謀が垣間見え、フィルは自身が謀られたことは明白であった。
 しかしそれを証明する術がない。
 信じていた者にも裏切られ、失意のフィルはハナトの牢獄へと送られる。
 何処にあっても王子としての気質を失わない彼は、牢獄にあっても看守に盾突き早々に水牢送りとなってしまう。
 そこで出会ったファルコンと、彼の脱獄を手助けに来たその妹リコオ、仲間のラグモと共に、化け物の襲い来る水牢を、そしてハナト牢獄を脱出する。
 王を失ったビルトランはパルシアの領地となった。
 残る一つドーアは現在の所、パルシアとの同盟によって安定を保たれているが、パルシア王の野心の前では風前の灯火と見られていた。
 ハナトを脱出し、ドーアの首都を訪れたフィルとファルコン一行。
 そこでフィルはリコオから、ファルコンの隠された過去−ファルコンも無実の罪を着せられ投獄されていたことを知る。
 季節祭に浮かれるドーアの町中で、フィルは自身の無実を証明してくれるただ一人の女性・エリスの姿を見かける。
 彼女を必死で追うフィル、その前に現れた謎の男・影のジーン−、ドーア国の王イグルの腹心である彼は主の元に一行を誘う。


<第2巻感想>

 第2巻からは「アクトレイザー第2章」ということで主人公変わりました。
 こちらはビルトラン王国の王子様−フィルが主人公。
 彼は王子様の割に小賢しいとこがあります。教育係にイタズラしかけるのは序の口、親衛隊員とは喧嘩仲間、戦い慣れしてるは、世間ずれしてるは、君は本当に王子様なのか?
 しかし人を惹き付ける才や困った人間を見捨てられない所、国を思う心がちゃんと根付いているのは感心感心。
 裁判中の弁論の妙といい、他国の王との交渉に余裕たっぷりに望んでみたりと、燈馬や葉が素直すぎる分見ていて胸の空くような思いでした。
 2巻のお気に入りは、やはりドーア国王のイグル陛下との舌戦ですね。
 「お前(イグル)は二つの道を選んでるんじゃない。オレにこう聞いているんだ。
 もっといい道はないかって
 この辺は後の作品にも通じるなとニヤリとしました。
 小賢しい王子と不遜な王との知恵比べ…熱くなった方の負け。
 「五日待てよ」
 「三日だ」

 の会話を見ると、イグル陛下は紫霞に似てますね。こっちは女好きの王、向こうはストイックな暗殺者ですが。

 第2章は前と比べてキャラが多い。キャラと相関図の整理が大変でした。国家の策謀が関わるから更に。
 話の中身では、「魔族と世界の危機」ではファンタジー過ぎる設定に、3つの大国間の争いを絡めて描いている。
 三大国の緊迫した関係と過去の因縁、それに絡む権力者の欲と策謀…「ロケットマン」の布石がここにあるんだなぁ。

 ヒロイン?のリコオが動き回って戦ってくれるのが、この2巻では何より好感。
 救出を待つだけのヒロイン(1章のアリシア)よりか、表情豊かなヒロインがいいですよ。
 その兄のファルコンが又渋いです。過去のある男の人は格好いいぜ。

 掲載時期は第1章の後、間断なくきているが、何気に背景の書き込みが多くリアルになっています。
 部屋の内装、町の風景などなど、確かに第1章は廃虚が多かったが、やはりキャラに馴染んだ背景が描かれている辺りに確実にレベルアップされてるんだなぁ、と感じた。
 ただ服装がファンタジーと現実が入り交じっていて「?」って所もあった。
 ドーアの近臣はスーツ姿、大臣クラスはその上から長い法衣のようなものを羽織ってるし、忍者っぽい兄さんは出てくるし…

 




<第3巻あらすじ>


イグルとファルコン、二人は魔物について書かれている日記を求め、山岳民族バルザを訪れる。
険しい山を越え、辿り着いた早々二人の前に突如竜が現れ襲い来る。
あわやと言うところを二人は魔法を扱う女性・ファーサに助けられた。
彼女の話から日記の在処が知れる。
日記をバルザに持ち込んだ男、彼から魔力を引き出されたファーサ以外のもう一人が現保有者である。名はモリガン−フィルを陥れ、パルシアをバックに持つ稀代の魔女。
その頃、フィルは最後の証人であるエリスと再会、漸く自身の無実を証明することを果たした。
世界の情勢が対パルシアに傾きつつある中、パルシア王は自身の野望のため魔族の封印を解くことをモリガンに命じた。
ドーア・ビルトラン、二国の街や村は復活した魔族の襲撃され、その炎を狼煙に戦いの幕が切って落とされた。
パルシア王とイグル、そしてフィルとモリガンとの戦いも始まる−

<第3巻感想>

長いこと手に入らなかった巻ですので、感傷も一入という所です。
最終決戦の件を見ていると、フィルが表主人公ならイグルは裏主人公だなぁと感じました。
根拠として2巻でイグルの祖母の言葉「信頼の置ける仲間を作りなさい」などの言葉と、ラストで彼の周りにいる人間、ファルコン・ファーサなどとの会話や、パルシア王を倒すのが彼というのもある。
まぁ、表立っての対立はドーアとパルシア、国王同士の一騎打ちなら頷けなくはない。
ちなみに裏でフィルvsモリガン戦が同時進行。
後は扉絵に良く出てるしね。
コミックのあとがき漫画(この頃はちゃんと描いてあったみたいだ)によると、2部のベースとなったのはオーストリア政府と世界史頻出用語”ハプスブルグ家”とのゴタゴタらしい。
あの辺は血が複雑に絡んでるからねぇ。
伏線もそれなりに消化されていたと思います。モリガンが世界を破滅させようとした動機(下記)とかバルザでの流行病とか…
パルシア王がそこまでビルトラン王妃に入れあげていた理由ってのが良く分かりませんが、知っても同情の余地はなさそうなキャラです。
>「あんな犬さえ助けなければ」
モリガンの今際の際のセリフ。
弱った犬を助けたせいで家族も友達もなくてしまって…何故自分ばかり酷い目に遭わなきゃいけないのか。
その時一番良い選択をしたはずなのに…と、なんかやり切れないという心情なんでしょう。
この辺は色んな漫画やアニメのラスボスからの踏襲だなと。
何かを失う・何かに幻滅する=世界への絶望=みんな死んじゃぇ!…的な。
人生は可哀想だが独りよがりだよなぁ。
自殺志願者が実は誰かに助けて貰いたいと、一目に付く所を狙って飛び降り騒ぎを起こすのと似てます。
 


<全体の雰囲気について>

絵柄については、掲載雑誌をまずバラ読みした時「アクトレイザー」が加藤先生の作品とは気付きませんでした。
じっくり読んでいると、何となく似ている(キャラの顔や目のアップ辺りが)とは思いましたが。
 1部主人公のバーツと天使ネズミの掛け合いに燈馬と可奈が重なる−ような気もする。
 やはりファンタジーなので線の書き込みが多く、全体的にキャラの頭身も高め。
 またキャラの動きが大きく激しいのもファンタジーの特徴だが、大ゴマで見応え良く書いてある。
 剣での戦闘シーンはなかなかスピーディーでしたよ。
「ロケットマン」でもこのくらい…紫霞にやらせてやって下さい。
 ゲームをやってないので、ストーリーがどれだけオリジナリティを持っているのか伺い知れない。
 先生の竜や魔物、その上騎士の鎧などを見て「ファンタジーも描けたんだな」としみじみ思ってしまった。
(だって「Q.E.D.」からは懸け離れてる)


<ちょっとしたこと>

>氷漬けヒロイン
他には石化・呪い・毒・痺れ・混乱・動物化…古今東西のファンタジー界における、ヒロインの憂き目を列挙してみました。
これで主人公には目指すべき指針が出来ると。今ジ○ンプ系でこの手の漫画読んだらへこむだろうな。
>モリガン
原形はヨーロッパの有名な英雄譚「アーサー王物語」に出てくる魔女モリガン(モルガン?)でしょうね。
主人公の成長の為の仇役というのが、原典からの踏襲なのか。
>影のジーン
ヨーロッパ系のファンタジーに忍者はどうなんだろう?しかもドーア国の官僚はスーツ姿だし(笑)
まぁこれぞゲーム漫画のキャラということか。
短い間とはいえ良くイグル殿下の我が侭に付き合ったよ。しかしその正体はかなり想像外だった。
簡単な説明として「ゴースト アクトレイザーの幻」とでも言おうか。
神の居る世界なら有り得ない話ではないが、最終戦に関わってこないのが多少残念ではあった。


キャラ紹介へ